綾小路通りに面する杉本家住宅は、京都の中心部にありながら、江戸以来の大店の構えと表屋造りの大規模な町家構成の典型を示し、江戸時代に熟成された京大工の技量が遺憾なく発揮され、技術性、意匠性共に高い評価を受けています。

  現在の主屋は元治の大火後に再建され、棟札によれば明治3年(1870年)4月23日に上棟。この時の当主は、第六代新左衛門為賢、棟梁は菱屋利三郎と近江屋五良右衛門でした。間口30メートル、奥行52メートルの敷地に建つ主屋は、表通りに面する店舗部と裏の居室部を取合部でつなぐ「表屋造り」で、京格子に出格子、大戸、犬矢来、そして厨子二階に開けた土塗りのむしこ窓など、すべてが昔ながらの典型的な京町家のたたずまいです。町家としては市内最大規模で、各一間半の床と棚を装置した座敷、独立棟として西に張り出した仏間、大きな台所などに特色著しいものがあり、また主屋の北寄りには、元治の大火に焼け残ったと伝えられる大蔵・隅蔵・中蔵が鍵型に並びます。保存状況は良好で、下京における大店の建築遺構として、きわめて高い価値を有します。また、祇園祭に際しては、当町伯牙山のお飾り場になります。

 平成2年(1990年)2月に京都市有形文化財の指定を受けた同住宅は、平成22年(2010年)6月に国の重要文化財に指定され、また新たに、主屋に付属する資料として棟札一枚(明治3年4月)、御本宅積り書一冊(明治3年2月)と旧米蔵一棟、旧漬物小屋、高塀六棟、宅地1049.89㎡が文化財指定に加えられました。平成23年(2011年)2月には、この建物内外の「庭」が「京町家の庭」として国の名勝指定を受けました。当該の「庭」には座敷庭はもとより、玄関庭、店庭、露地庭、坪庭および屋内の走り庭が含まれています。いわゆる植栽されていない、屋内の通路兼作業場である「庭」が名勝指定されたのは杉本家住宅が初めてです。